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流動するかたち

 



 

私たちは自らの身体が持つ無数の感覚器官を働かせながら生きています。

ある時心を動かされるかたちとの幸運な出会いがありました。

それは陶という素材でできていました。

この時自分の中に流れている何かが反応したのですが、その本質を捉えることは出来ず

確かな確信だけが残りました。

 

 

かたちを作っていく上で、故郷の富山県八尾町の伝統行事である

“おわら風の盆” という踊りの「所作」から着想を得ています。

五穀豊穣を願うお祭りの名称で、古い町並みが残る石畳の町中を

踊り子たちが生歌に乗せてゆったりとした踊りを披露するというものです。

この町に暮らす人は、年に一度のこの行事の為に後の362日を乗り切るという程に

この3日間を大切にし伝統を守ってきました。

そしてこの踊りにある、優美で美しいと称される所作が

自身の作りたいかたちに対する興味の原点だと感じています。

 

育った土地の風土が自身の根底にあるのはもちろんですが

日々陶という素材を通し、かたちと向き合う中で

生まれて間もない頃から教え込まれたこの踊りの所作と

身体の芯から染み込んだ、その動きが潜在的に自身の意識下で

脈動していることを強く感じます。

 

また幼少期から18年間を過ごしたこの土地は

北陸の美しい風土に恵まれており、そこに宿る、風、舞、自然の脈動すべてが

今に至る自身の造形の軸となりました。

 

 

人がかたちに対して心を動かされる時

人と対象物との間では確かに、何らかの"交感"  が行われているように思います。

そして陶という素材と長い時間をかけて対話し "交感"  し合う中で

思いがけないかたちが生まれ始めました。

その尊い瞬間に出会いたくて

そこに、自分の中で脈動しているものの本質を探るヒントがあると信じて

今日もまた、かたちと向き合っています。

 





 

Maki OI



2023.8




 

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